【日刊】びょういんつうしん 最終回
石川さん 焼き鳥屋
まりこ、照れくさそうな笑顔で退院。
サクマさん、不安そうに退院。
佐藤会長、「シャバへ」。
ゆあささん、ネックガードをつけて退院後、パチンコの毎日。
となりの小島さん、明日。
向かいのベッドの、焼き鳥屋のおじいちゃん、石川さん…
いつもテレビをイヤホンで聞きながら、一人で笑っている。楽しそう。ほんとうにテレビが好きなんだ。
寝言で、「焼き鳥が焼けなくなったらおしまいだな…」とつぶやいていた。
石川さんの奥さんがうるさい人で、耳が遠いのか、声が大きい。その上石川さんに次々とたたみかけるように質問をする。石川さんも半ば勢いに負けて押し切られてしまうようす。
毎日、昼前から来る面会は聞くに堪えず、私は部屋からいつも出てしまっていた。奥さんは、せっかちで短期で自己中心的な人だと思っていた。
石川さんは、今回で4回目の入院。「食べ物屋をやってるから舌が肥えてしまって、病院の食事は口に合わないや。好き嫌いも多いしな」と今日話していた。
面会の時に、奥さんが差し入れにうなぎとか魚を持って来て、石川さんがそれを食べ、病院食は奥さんが食べている。そういう食生活をするから病気になるんだよと思っていた。
けれども…
石川さんは日曜に退院して、1ヶ月後に再入院らしい。奥さんとドクターやナースとの会話でそんな予定であることがわかった。
その後、石川さんが長いトイレに行っている間に、奥さんがナースに、多分少し涙ぐみながら、「少しずつ悪くなっていく病気って、私の気持ちの準備ができるから、悔いを残さずに死を迎えていけるから幸せなのかもしれないね」って小さい声で話していた。
多分、奥さんの激しい口調はもう何十年もやってることで、これからも変わらない。変えてはいけないこと。
トイレから出て来た石川さんは奥さんにむかって何を思ったのか、「あんたもしっかりしてるねぇ」と言った。「何を今さら…」と笑いながら、そして、店にいつ出るのかを元気に二人で話し合っていた。
どうやらその店は東京タワーの向こう側の近くにあるらしく、とってもはやっていて安いらしく、「ショーちゃん(ナースがつけた石川さんのあだ名)退院記念」のナースの飲み会企画がその店ですでに計画され、そしてそれとは別に、ドクターも連れ立って飲みに行く予定らしい。
焼き鳥を焼くショーちゃんは、かっこいいんだろうな。
夜中の2時、石川さんはトイレに立って、戻って来て、
またテレビをつけて見ている。
<2008.5 .17 最終回 おわり>