【日刊】びょういんつうしん その7
空の色
眠りが浅くなってきて、5時には目が覚める。
病院での生活に慣れてきて、毎日余り疲れない。色々な人と話して、病院の中のこともよくわかってきた。社会とは別の時間が流れているこの場所が、生活の場になりつつある。
病気の原因が見つからない。入院前に紹介医が考えていた病気ではなかった。検査をして、原因が見つかって、治療して、退院するという、自分でイメージしていた時間の目安が消えつつある。
私も、喫煙場所に集う難病患者たちの一人になっていくのかもしれない。
昨日は朝から雨だった。空は暗い灰色。
常に上を向いて横になっている患者のためか、天井には蛍光灯がない。だから、部屋の中がとても暗いんだ。寒さはそれぞれの病気にこたえるようで、みんなの表情も灰色に沈んでいる。病院全体が、重い空気に包まれているみたいだ。
吹きさらしの喫煙場所は、半分が軒の外。濡れるから、肩を寄せ合うようにして集まり、タバコを吸っている。
日が暮れてから、空が透明の青に変わった。何となくそれが嬉しい。本当は、鈍色の空の方が気持ちに似合ってる気がするのに。
晴れたら、世の中のスピードが上がる。桜の木の近くに行ける普通の人達は華やぐ季節。
一日の大半室内にいたら、天気は関係ないのにね。それでも透きとおった空は何となく嬉しい。
「そろそろオリオンが見えるかな。明日はいい天気になりそうだ。」ベンチで誰にともなく、患者の一人がつぶやいた。
≪その7 おわり≫